序文

竊(ひそか)ニ愚案(ぐあん)ヲ廻(めぐ)ラシテ、粗(ほぼ)古今(ここん)ヲ勘(かんが)ウルニ、先師(せんし)ノ口伝(くでん)之真信(しんしん)ニ異(こと)ナルコトヲ歎(なげ)キ、後学(こうがく)相続(そうぞく)之疑惑(ぎわく)有(あ)ルコトヲ思(おも)フニ、幸(さいわ)ヒニ有縁(うえん)ノ知識(ちしき)ニ依(よ)ラ不(ざ)レ者(ば)、争(いか)デカ易行(いぎょう)ノ一門(いちもん)ニ入(い)ルコトヲ得(え)ン哉。全(まった)ク自見(じけん)之覚語(かくご)ヲ以(もっ)テ、他力(たりき)之宗旨(しゅうし)ヲ乱(みだ)ルコト莫(なか)レ。仍(よ)ッテ、故(こ)親鸞聖人(しんらんしょうにん)ノ御物語(おんものがたり)ノ趣(おもむき)、耳(みみ)ノ底(そこ)ニ留(とど)ムル所(ところ)、聊(いささ)カ之(これ)ヲ注(しる)ス。偏(ひとえ)ニ同心行者(どうしんぎょうじゃ)之不審(ふしん)ヲ散(さん)ゼンガ為(ため)也ト云々(うんぬん)。

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語釈

竊に(ひそかに)
密かに、ひっそりと。謙遜を込めて「人知れず」という意味で使われる。
愚案(ぐあん)
愚かな考え。自らの考えを謙遜して言う語。
廻らす(めぐらす)
考えをめぐらす、思いをめぐらすこと。
粗(ほぼ)
おおよそ、だいたい。
勘うる(かんがうる)
考え合わせる、比較考察する。現代語の「考える」に近い。
先師(せんし)
亡くなった師。ここでは親鸞聖人を指す。
口伝(くでん)
口から口へ直接伝えられた教え。師から弟子への直接の教授。
真信(しんしん)
真実の信心。阿弥陀仏から賜る他力の信心。
異なる(ことなる)
異なること、違っていること。
歎く(なげく)
嘆き悲しむ。深く憂えること。
後学(こうがく)
後から学ぶ者。後世の人々。
相続(そうぞく)
受け継ぐこと。教えや信心を継承すること。
疑惑(ぎわく)
疑い、迷い。教えに対する惑い。
有縁(うえん)
仏法に縁のあること。仏に出会う因縁を持っていること。
知識(ちしき)
善知識の略。正しい仏法を教え導いてくれる師や先達。現代語の「知識」とは異なる。
依る(よる)
頼りにする、従う。
争でか(いかでか)
どうして~できようか。反語を表す古語。
易行(いぎょう)
易しい修行。念仏往生の教え。難行の聖道門に対して、浄土門の修行を指す。
一門(いちもん)
一つの教えの門。ここでは念仏の教えを指す。
自見(じけん)
自分勝手な見解。独りよがりの解釈。
覚語(かくご)
悟ったかのような言葉。独りよがりの悟りを語ること。
他力(たりき)
阿弥陀仏の本願の力。自力の修行ではなく、仏の力によって救われること。
宗旨(しゅうし)
宗派の根本的な教え。ここでは他力念仏の教えを指す。
乱る(みだる)
乱す、かき乱すこと。
莫れ(なかれ)
~してはならない。禁止を表す古語。
仍って(よって)
そこで、それゆえに。
故(こ)
亡くなった、故人の。
御物語(おんものがたり)
お話、法話。師の教えの言葉。
趣(おもむき)
内容、趣旨。話の要点。
聊か(いささか)
少し、わずかに。謙遜の表現。
注す(しるす)
書き記す、記録する。
偏に(ひとえに)
ひたすらに、一途に、もっぱら。
同心行者(どうしんぎょうじゃ)
同じ信心を持つ念仏者。同朋。
不審(ふしん)
疑問、疑い。現代語の「不審(あやしい)」とは異なり、教えについての疑問の意。
散ぜん(さんぜん)
散らす、解消する。疑いを晴らすこと。
云々(うんぬん)
~と言った、という意味で文末に置かれる言葉。